藤本クリニックは、青森市内の主要道である県道120号線沿いに建つ脳神経外科と内科を標榜するクリニックです。院長の藤本俊一先生は“街の脳疾患専門医”として、認知症の人とご家族の気持ちを第一に、高齢化が進む地域の認知症ケアを支え続けています。
1998年12月の開業以来、藤本クリニックは脳神経外科を専門とするクリニックとして地域に根ざした診療を続けてきました。
院長の藤本俊一先生は開業当時を「地域の皆さんが、脳卒中などの脳に関連した疾患、頭部のケガなどを気軽に相談できるクリニックを目指しました」と振り返ります。
その後、地域の高齢化が進んだことから、認知症の診療件数が徐々に増加。現在は近隣地域だけではなく、青森市内全域から認知症の人が来院されるといいます。
来院のきっかけの多くは、ご本人の言動や行動の変化にご家族が不安を感じたことです。
「同居している父が最近同じ言葉ばかりを繰り返すようになったとか、久しぶりに会うと以前と明らかに立ち居振る舞いが違っていたなど、ご家族の違和感がきっかけになることが多いようです」(藤本先生)。
認知症の疑いのある人が来院された際は、看護師が普段の生活の様子や他疾患の有無などの聞き取りを行ったうえで、長谷川式簡易スケールなどで認知機能を確認します。
認知症の人の中には、病院に来るといつもよりしっかり受け答えをする人もいるため、ご家族からの聞き取りは重要です。看護師の山本いづみさんは「認知症の方のプライドを傷つけないよう十分に注意しながら、暮らしぶりがどう変わったか、現在の生活にどんな支障があるかをうかがいます」と話します。
「プライベートなことにまで踏み込むこともありますが、話すうちに緊張がほぐれ、安心される方もおられます。先生の診察にスムーズにつなぐうえでも、看護師による聞き取りは大事だと思っています」(山本さん)。
藤本先生は診断をつけるうえで、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など、治療可能な認知症か否かを確認するために画像検査を重視しています。同クリニックは院内にMRIとCTを備えており、認知症の鑑別には主にMRIを活用。原則として来院されたその日のうちに、わかる範囲内で検査結果をお伝えできるようにしています。
「脳の萎縮が見られ、追加の検査が必要なときにも、その時点の検査でお伝えできることを丁寧にお話します。ご本人もご家族も、今どんな状態なのかを早く知りたがっていますから、そのお気持ちにできるだけお応えするよう心がけています」(藤本先生)。
MRI検査を担当するのは放射線技師の佐々木和寿さんです。検査の前に問診票に目を通し、ご本人が検査中に落ち着いていられるかや、スムーズに検査ができるかを確認します。MRIは内部が狭く、検査中の音も大きいため、25分程度の検査中にじっとしていられない人も少なくありません。佐々木さんは、リラックスできるように、検査室を薄暗くして毛布やアイマスクを用意したり、検査中にもこまめに話しかけたりと、不安を減らすための工夫を重ねています。
「じっとしていることが難しい方の検査では、ラジアルスキャンという動きを補正する撮像法を用いることもありますが、検査を受けられる一人ひとりのお気持ちに寄り添って対応し、落ち着いた状態で検査を受けていただくことが大事だと考えています」(佐々木さん)。
常にご本人とご家族の気持ちに寄り添うという姿勢は、スタッフ全員に共有されています。同院の運営管理を務める事務長の小野智之さんは「認知症の方とご家族が院内で嫌な思いをすることなく、気持ち良く帰っていただくことが大切です」と話します。
認知症の人は付き添いのご家族がトイレに行っただけでも不安になって歩きまわったり、大きな声を出して他の来院者を驚かせてしまったりすることがあります。しかし、わざわざ特別な対応をすると、そのことが逆にご本人とご家族の心の負担になりかねません。
「目立たないように、早めに検査室に案内するなど自然な対応を心がけています。認知症の方は出来事そのものは忘れてしまっても、嫌な感情は残ってしまうことがあるので、そうならないように注意しています」(小野さん)。
窓口業務を担当する事務の白鳥あゆみさんも「すべての患者さんに笑顔で丁寧に対応するのが基本です」と話します。
「認知症の方の中には、同じことを何度も質問される方もおられます。おそらく不安だからこそのご質問だと思うので、その不安が少しでも和らぐよう、何度聞かれても笑顔で対応しています。また、再診の方で以前と様子が違うと感じたときは、気づいた点を電子カルテに記入して先生に伝えるようにしています」(白鳥さん)。
認知症医療において地域内連携は必要不可欠です。近隣のクリニックで認知症の疑いがあると紹介されて同クリニックに来られた方には、診断結果をかかりつけ医に伝え、その後の診療をしてもらうようにしています。通い慣れたクリニックの方が、安心して通院できるとの考えからです。
また、同クリニックは青森市に拠点を置く社会福祉法人平元会と密な連携をとっており、同会が運営する特別養護老人ホームの入所者さんに認知症の疑いがあったときは、同クリニックで診療することも多いといいます。
「認知症のケアは医療だけでは不十分で、介護・福祉面を含め幅広いサポートが重要です。当クリニックでは、診察後に必要があれば、すぐに平元会のケアマネジャーにつなぐ体制ができています。これは当クリニックの大きな特長といえるでしょう」(藤本先生)。
地域の高齢化が進むにつれて、さらに認知症の人の来院は増えると見込まれます。藤本先生は先を見据えて、診療体制をどう充実させていくかを考えています。
「初診の方の症状を把握し、画像検査を行い、診断をつけてご本人とご家族にご説明すると、どうしても時間がかかってしまい、私一人で診られる人数は限られてしまいます。院内のスタッフに今以上に協力してもらい、役割を分担することが必要でしょう」(藤本先生)。
一方で藤本先生は、検査の拡充も視野に入れています。
「長谷川式やMMSE(認知機能検査)では、MCI(軽度認知障害)はチェックしきれません。早期発見の面からも、認知機能の微妙な低下が判定できる良い方法があれば取り入れていきたいと思っています」(藤本先生)。
藤本先生は地域における今後の認知症ケアを考えるとき、啓発活動や関係者の密な連携が重要だと指摘します。
同クリニックでは、平元会が認知症について気軽に語り合う場として開催している認知症カフェに、藤本先生が講師として参加しています。また、同クリニック内の認知症勉強会に、平元会のグループホームのスタッフが参加するなど、交流を深めながらスキルアップに取り組んでいます。
藤本先生は認知症に関する近隣町内会の集まりでの講師も務めており、「例えば、認知症の疑いのある方にどうやって受診してもらうか、といったテーマでお話をします。ご本人が大丈夫だと言い張り、病院に行きたがらないことが多いので、具体的なアドバイスが必要だと考えています」と話します。
さらに今後、地域連携を進めるうえで大切なのは「診療データの蓄積と共有」だと藤本先生は語ります。
「専門的な医療施設だけで地域のすべての認知症の方を診ることはできませんから、内科などのクリニックの先生にも診療していただく必要があります。大事なのは、それぞれの医療施設の診療データをまとめて蓄積し、今後の診療に生かすこと。そのためのネットワークづくりが必要だと思っています」(藤本先生)。
医療法人柏葉会 脳神経外科・内科 藤本クリニック
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