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病院内専門医が協働、開業医との連携で患者、家族をみる
<北海道砂川市 砂川市立病院>

砂川市立病院 副院長・認知症疾患医療センター長 内海久美子先生 砂川市立病院
副院長・認知症疾患医療センター長
内海久美子先生

急速に高齢化と過疎化が進む旧炭鉱町を数多く抱える北海道砂川市で地域の基幹病院に設置された「もの忘れ専門外来」と開業医が連携し、保健師やケアマネジャーなどの専門職だけでなく行政と市民が一体となった認知症診療のネットワークが砂川モデルとして全国の関係者から注目されています。

砂川市立病院の「もの忘れ専門外来」 では、3診療科が協働で、的確な診断を

同外来は2004年に砂川市立病院の精神科、神経内科、脳神経外科の3科が協働で診療するもの忘れ専門外来を開設しました。1998年にこの病院に赴任した精神科部長の内海久美子先生が「高齢化が進み認知症患者さんが多いのに、患者さんとご家族がどの科を受診すればいいのか迷っている状況だったので、“もの忘れ外来”という名称ならわかりやすいと考えました。また、精神科特有の敷居の高さを緩和できるとも考えました」と、設置の動機を話します。

3科が協働して行うことになったのは、認知症を専門としていない脳神経外科に多くの患者さんが受診するために担当医が困っており、ちょうど当院内に神経内科ができたこともきっかけでした。内海センター長はアルツハイマー病の専門医で、認知症の診断と治療には多角的な診察が大切であることを脳神経外科と神経内科の担当医に理解してもらい、全国的にも珍しい3科協働の外来が誕生しました。

2004年もの忘れ専門外来が始まった頃の3科合同カンファレンスの模様 2004年もの忘れ専門外来が始まった頃の
3科合同カンファレンスの模様

合同カンファレンスの模様 現在の3科合同カンファレンスの模様

外来は初診と再診の週2日。予約制で初診は一日2人だけ。精神科医が家族から患者さんの生活歴や日常生活について詳しく聞いた後に、患者さん本人を診察。その後、神経内科医が神経学的な診察をします。神経内科専門医である安村修一先生(現在は札幌佐藤病院に在籍しており当院では非常勤として診療)は「一般的な神経学的検査はハンマーやピンといった簡単な道具を使った一見非常にローテクな検査です。最も頻度の多い認知症であるアルツハイマー病の病初期の診断に有効なテストのひとつに高次の視覚認知テストとして青果店で買物をしている絵などを見せて、患者さんに説明していただいたりもします」と話します。

脳神経外科医は、MRIやSPECTなどの画像診断を行います。脳外科医である吉田英人先生はクリニックを開業された後も合同カンファレンスに参加しており「認知障害に対する脳の萎縮やラクナ梗塞の影響を判断します。また現在では、直接、当クリニックを受診された患者さんに認知症が疑われたら“もの忘れ専門外来”へ行ってもらうこともあります」と病診連携を推進しています。

同専門外来の特徴として他にも3科にコメディカルの診療放射線技師、公認心理師を加えた合同カンファレンスを毎週開催していることが挙げられます。各担当者がそれぞれの専門的立場から得られた知見・所見について意見を交換します。

内海先生は「精神科医は画像を読むトレーニングをあまり受けていないので、脳神経外科医の診たては非常に勉強になります」と、カンファレンスのメリットを指摘します。また、吉田先生も「もの忘れ専門外来ができて、その上、カンファレンスに参加することで認知症に関する理解も深まりました」と、話します。

 

「画像診断レポート」による連携 地域の住民、保健師らとの交流が大切

同外来で確定診断がでると、その情報を患者さんやご家族だけでなく、かかりつけ医、ケアマネジャーなど患者さんに関わるすべての人々と情報を共有するように心がけています。

その1つが、紹介患者さんについてのカンファレンスの内容なども含んだ詳細なレポートの送付です。このレポートの中には脳血流の状態などが一目でわかるように処理された患者さんのMRIやSPECTなどの画像が印刷された「画像診断レポート」もあります。このレポートには放射線技師が画像に関するコメントを書き、さらにカンファレンスで話し合われた内容などについても内海先生がわかりやすく書いています。1人のレポートが十数枚にもなります。

かかりつけ医にお渡しする画像診断レポート かかりつけ医にお渡しする画像診断レポート
ご本人、家族にお渡しする認知症療養計画書 ご本人、家族にお渡しする認知症療養計画書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医療法人社団慈佑会方波見医院 医師 方波見康雄先生 医療法人社団慈佑会方波見医院
医師 方波見康雄先生

「画像診断レポートは私たち開業医にとって本当にいい教材です。画像診断の素人が最新の認知症に関する画像診断を知る絶好の機会で、とても勉強になります」と言うのは、30年以上にわたり認知症を診ている空知郡奈井江町の方波見医院、方波見康雄先生。

方波見先生は大正時代に開院した開業医の2代目。まだ認知症が痴呆症と呼ばれ、それほど関心も高くなかった1980年代に「昔からよく知っている人生の大先輩のおばちゃんやおじちゃんに異変が起こっているのを目の当たりにして、なんとかしなければ」と、認知症のことを独学しました。「当時、がんの在宅緩和ケアをしていましたが、がんはゴールが見えますが、認知症のケアは延々と家族を巻き込んで続きます。この地域でも急速に高齢化が進んでいて危機感を覚えたのです」と方波見先生。

地域の人たちに認知症に対する理解を深めてもらうことが先決だと考えて、農閑期の冬に年4回、認知症介護についての家庭セミナーを開きました。地域の健康問題へのかかわりが深い役場の保健師にも手伝ってもらいながら、認知症の患者さんを抱える家族の状況を調べるなど地域における認知症の実態も把握し、保健師は学会で発表するほどでした。さらに、方波見先生が認知症のビデオを作ろうと考え砂川市立病院の脳神経外科の当時の部長に脳の画像データ提供をお願いしたのが、病院との連携の始まりです。

認知症医療というものが世の中に認識される以前から、試行錯誤を繰り返しながら、かかりつけ医として地域の患者さんやご家族と関わってきた方波見先生は、「今では多くの医療者、地域の皆さんが認知症に関心を持ち町ぐるみでサポートできる上、素晴らしいシステムができあがり嬉しい限りですね」と、認知症医療をとりまく環境の進歩を歓迎しています。

また、方波見先生は、NPO法人中空知・地域で認知症を支える会の理事として内海先生とともに中空知地域の認知症啓発にも協力されています。

 

ケアマネジャーの目を養う 希望を処方することを目指す

地域コミュニティとのつながりを大事にしている方波見先生は常に地域の人々の行動を見ています。和服を着て上品で礼儀正しかったお婆さんが汚れた服を着るようになりました。しばらくたったある夜に、家族が「お祖母さんが仏壇に入っておしっこをしている」と血相を変えてきましたが、方波見先生は「お祖母さんはここをトイレと思っているだけ。トイレが終わったら、出ましょうか?」と優しく声をかけると、すんなり仏壇から出てきました。

保健師や医院に勤めている看護師が、地域の人のちょっとした行動の変化に気付いて「もの忘れ専門外来」へ紹介し、認知症が早期に発見されることもあります。方波見先生は「医者の目線ではなく地域で生活している人と同じ目線で見ることで、人々の少しの変化にも気付きますし、認知症をケアする上でも生活の背景がよくわかっているので対応がしやすくなります。認知症の早期発見とケアには地域の情報がもっとも大切なのです」と、開業医が認知症を見る際の極意を明かしてくれました。

もの忘れ専門外来でまとめられたレポートは、かかりつけ医だけでなく患者さんを担当するケアマネジャーにも送付されます。ケアマネジャーにとっては医学的に高度な認知症に関する知識を得る絶好の機会になります。お陰でケアマネジャーが誤診を見破ったこともありました。他の病院で認知症と診断された患者さんをこのケアマネジャーは担当していたのですが、これまでのレポートから得た知識によって認知症ではないと判断して同外来へ連絡しました。診断の結果、アルツハイマー型認知症ではなく他の重大な疾患だったのです。「認知症の症状は非常に多彩ですが、何人ものレポートを読めば、認知症についてある程度理解することができます」(内海先生)。

支えあい連携手帳 支えあい連携手帳

現在同外来では“支えあい連携手帳”を診断後に主にご家族にお渡ししており、ケアマネジャー、デイサービスセンターなどの介護施設スタッフ、かかりつけ医、薬局薬剤師など、あらゆる関係者でその手帳を見て、書き込んで情報共有をするツールを開発しました。他の地域にはない試みで「治療に役立つ情報の宝庫ともなります」と、内海先生は地域連携の重要性を指摘します。

砂川市の試みは「うまくいっている」との評価がありますが、内海先生は「まだまだ発展途上です。院内の協働はうまくいっていますが、認知症の治療、ケアで一番大切なのは患者さんとご家族を支えることですが、完治させる薬はありませんし、ケアにもマニュアルはありません。活動しながら足りないものが次々と見えてきます」と、ますます良いシステムにしていこうとする意欲が現れています。

また、数多くの患者さん、ご家族と接してきても、内海先生は診断と告知のときには非常に気を遣います。患者さんには話したいと思っていることを思いのたけ話してもらっています。「最初の診断・検査で嫌な思いをされると、もう病院に来てもらえないかもしれません。認知症治療は長いお付き合いですから、診察で病院に来たというよりは、今日は来てよかったという思いを抱いて帰ってもらいたいからです。」

本人とご家族に告知するときも「人間、年をとったらだれでももの忘れをするようになります。現在のことをちょっと忘れやすいだけで、忘れやすさを少し抑えられる薬もありますし、10年たっても昔の楽しかったことは忘れることはありませんよと、ショックを与えないよう希望を処方するのです。人としての尊厳を失っているわけでは決してありませんし、いつまでも家族は家族です」と、内海先生は笑顔で帰ってもらえるように患者さんとご家族の身になったコミュニケーションを心がけています。

 

 

更新日:2020年5月25日

砂川市立病院の外観

砂川市立病院

北海道砂川市西4条北3丁目1番1号
TEL : 0125-54-2131 
FAX : 0125-54-0101

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医療法人社団慈佑会 方波見医院 の外観

医療法人社団慈佑会 方波見医院

北海道空知郡奈井江町字奈井江町133
TEL : 0125-65-2016







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