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地域連携を深め、ご本人・ご家族が“絶望しない支援”を目指す
<和歌山県橋本市 橋本市民病院>

脳神経外科 部長 大饗義仁先生 脳神経外科 部長
大饗義仁先生

橋本市民病院は、和歌山県北東部の橋本市、九度山町、高野町、かつらぎ町の1市3町で構成される橋本医療圏の中核病院です。病床数は300床、内科、外科、小児科、産婦人科、整形外科、脳神経外科など25の診療科を備えており、救急医療にも力を入れています。2013年には物忘れ外来を設置。認知症の診断・治療のほか、地域住民への啓発活動にも積極的に取り組み、近隣の医療機関や地域包括支援センターと協力しながら認知症の人とご家族の支援を続けています。

脳神経外科領域に限らず、認知症全般を幅広く診療

同院の認知症診療で中心的な役割を担っているのは、脳神経外科医の大饗義仁(オワイヨシヒロ)先生です。以前から特発性正常圧水頭症(iNPH)や慢性硬膜下血腫など、いわゆる“治る認知症”に対する脳神経外科手術の経験が多かった大饗先生が、本格的に認知症診療に携わるようになったのは、和歌山県立医科大学大学院で脳腫瘍の研究をしていた2006年に、和歌山県の介護予防事業に協力したことがきっかけでした。認知症予防教室で使用する脳のトレーニングドリルの作成や、教室に参加する高齢者の認知機能検査に加えて、認知症診療に対応可能な医療機関のリストづくり、地域の認知症診療のレベルアップを目指してかかりつけ医など医療従事者向けの講習も行ったそうです。

その後、2008年から5年間在籍した和歌山県立医科大学附属病院紀北分院で、物忘れ外来を開設。当初は脳神経外科手術で治療可能な認知症をキャッチしたいと考えていたそうですが、実際にはアルツハイマー型認知症の方も多く、また近隣に物忘れを診療する医療機関が少なかったこともあり、認知症全般に幅広く対応するようになりました。2013年に着任した橋本市民病院でも物忘れ外来を立ち上げ、認知症の診断と治療、ご本人・ご家族の生活支援にあたっています。

院内他科や他院とも連携し、早期発見・早期治療に努める

同院には脳神経内科や精神科がなく、認知症診療は脳神経外科で行っており、週1回の物忘れ外来は大饗先生が担当しています。受診のきっかけは、他の医療機関からの紹介や物忘れの症状に気づいたご家族に連れて来られる方、ご自分で不安を感じて直接来院される方などさまざまです。自分で受診される方には、年相応の物忘れやストレスからくる記憶力低下のほか、MCI(軽度認知障害)の段階の方も半数ほどおられます。

さらに最近は、院内他科からの紹介が増えています。例えば、血糖コントロールが悪化した糖尿病患者さんが、実は薬をきちんと服用できなくなっていたことがわかり、物忘れ外来の受診につながることもあります。また、骨折や肺炎など他科の治療で入院中にせん妄を発症する方も増え、大饗先生は今後は院内に認知症チームを編成し、診療科の垣根を越えて予防や対応に当たることも考えているそうです。

また、同院はiNPHを相談できる病院リストにも入れてもらっており、積極的に治療に取り組んでいます。iNPHには認知障害、歩行障害、尿失禁の3つの主症状があり、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病との鑑別が難しいとされています。大饗先生は「iNPHはまれな病気と思われがちですが、実は頻度の高い疾患であり、見過ごされている方も多いと考えられます」と話します。

「iNPHは脳手術で認知症の改善が見込まれるため、しっかり鑑別して治療することが大切です。今後は地域の先生方と『iNPH連携の会』を立ち上げて、早期発見・早期治療につなげていきたいと思っています」

初診まで2~3ヵ月の予約待ちという病院も珍しくない中、同院では紹介状がなくても受診を希望する人を受け入れ、初回の来院時には問診と診察を、2回目に検査・診断を行うスタイルで診療に取り組んでいます。

診察室での会話を通して、ご本人の好き・嫌いを把握

診断に当たっては、MMSE(認知機能検査)やMRI画像検査のほか、物忘れが日常生活に影響を与える程度をみる指標、DECO(Deterioration cognitive observee)を用いています。さらに、MCIとの鑑別に迷うときにはSPECTを追加しています。

病名を告げる際、大饗先生は「ご本人やご家族を絶望させないこと」を意識して、言葉を選んで説明しています。例えば「認知症だから治りません」ではなく、「今のところ認知症を治すお薬はありませんが、進行を遅らせるお薬はありますから、それを使っていきましょう」と説明すると、ほとんどの方がホッとしたような表情をされると言います。

「物忘れ外来を始める前は、告知するとご本人もご家族も落ち込んでしまうのではないかと心配していましたが、むしろ認知症だとはっきりしたことで安心する方が多いように思います。中には落ち込む方や、『自分が面倒をみなければ』と抱え込んでしまうご家族もおられますが、介護保険制度の利用を勧めるなどして“絶望しない支援”を心がけています」

認知症の方がつくられた作品 認知症の方がつくられた作品

外来では普段の生活ぶりや趣味などを尋ね、絵を描いたり写真を撮ったりしている方には作品を持参してもらっています。俳句や絵手紙を書いてくる方もおられ、大饗先生は「認知症になってもできることはあります。作品を拝見しながらお話をするのはとても楽しくて、まさに認知症診療の醍醐味ですね」と笑顔で語ります。また、趣味の話をきっかけに、将来口から食べられなくなったときに胃ろうを造設したいのか、延命治療を希望するのかなど、終末期のケアにまで話が広がることもあるそうです。

「その方が好きなこと・苦手なことを知っていると、BPSD(周辺症状)が起こった際の対応がスムーズになるなど、後々の診療に役立つこともあります。お薬を処方するだけでなく、普段から十分にコミュニケーションをとり、人となりを理解しておくことが大切だと思います」

他院や行政と連携し、適切な医療を提供

他の医療機関から紹介されてきた方は診断後、処方薬の用量調整が終了し落ち着いたタイミングで紹介元に戻し、半年から1年に1度の頻度で定期検査に来てもらっています。また、BPSDが強く出たときには入院設備のある精神科病院に、パーキンソン症状がある人は脳神経内科の専門医に紹介しています。

「脳神経外科だけでは対応しきれない場合もありますから、他の医療機関との協力が不可欠です。近隣の精神科クリニックの医師が2週に1度、当院の病棟巡回に来られる際に、BPSDの対応などについて相談することもあります」

市民病院であることから行政機関との連携もスムーズで、特に地域包括支援センターの職員とはメールや電話などで頻繁に連絡を取り合っています。「何か困ったことがあれば、皆さん気軽に連絡してきてくれます」と話す大饗先生。受診を拒む方がいる場合は、大饗先生から地域包括支援センター内に設置されている初期集中支援チームに訪問を依頼することもあるそうです。

一方で、介護施設との連携は十分でありません。現状では、施設側とは書面でのやりとりを通して、ご本人の病状や治療内容などの情報を共有していますが、大饗先生は「スタッフの方もお困りのことがあるでしょうから、気軽にご相談いただけるよう“顔の見える関係”を築いていけたら」と、今後の課題を語ります。

啓発活動を通して“認知症になっても住みよい町づくり”を後押し

「認知症の方を支えるには医療と行政、介護だけでなく、地域との連携が大切です」と話す大饗先生は、忙しい診療の合間を縫って啓発活動にも積極的に取り組んでいます。県内のみならず県外からも講演依頼が舞い込むほどですが、講演後に聴講した人から「先生、認知症になったらおしまいやな」、「認知症よりがんのほうがましや」などと声を掛けられ、「何のために講演したんだろう」とショックを受けたと言います。

しかしこの経験の後、認知症の方が制作された絵画などの作品をスライドで紹介して、「認知症になっても住みよい町づくりが大切」というメッセージを前面に押し出すスタイルに変えたところ、「認知症になってもできることがあるんですね」、「認知症の人を地域の皆で支えていきたい」といった前向きな声が届くようになりました。

「講演を通じて地域の皆さんに理解を深めていただき、認知症の方が一人で出歩いていたらご家族に連絡する、一人暮らしの高齢者の様子がおかしい場合は地域包括支援センターに相談するなど、対応をお願いできるといいですね」

脳神経外科医として“治る認知症”の早期発見・早期治療に取り組む一方で、アルツハイマー型認知症などのご本人・ご家族とも向き合う大饗先生。認知症の方とご家族が「絶望しない支援」を続けるために、医療従事者や行政、介護・福祉従事者だけでなく、地域住民とも協力して住みやすい環境づくりを進めていきます。

 

 

取材日:2020年7月17日
橋本市民病院の外観

橋本市民病院

〒648-0005
和歌山県橋本市小峰台二丁目8番地の1
TEL:0736-37-1200

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