兵庫県明石市で2016年4月に開業した、ふじた脳神経内科は、脳神経疾患を中心に、一般内科の診療も行うクリニックです。大学病院などで脳神経内科医として経験を積んだ院長が、地域の認知症医療を支える取り組みを進めています。
ふじた脳神経内科は2016年4月開業の、まだ新しいクリニックです。院長の藤田賢吾先生は明石市二見町の出身で、関西医科大学で学び、同大学の附属病院などで経験を積んだのち、故郷の明石市で開業しました。
「大学病院ではパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病の診療を担当しながら、民間病院で、もの忘れ外来に取り組んでいました」と藤田先生は振り返ります。
もの忘れ外来では多くの認知症の方を診療した藤田先生ですが、症状がかなり進んでから受診される方が少なくなかったと言います。
「ご家族もご本人も、『もう歳だから、少しくらいの物忘れは仕方がない』と考えておられて、いよいよ生活に支障が出るようになってから受診されるのです。もっと早く治療を始めていれば、と思うことが多かったですね」(藤田先生)
明石市で開業するにあたって、この地域でもっと認知症医療を充実させたい、もっと認知症で困っている方々を受け入れたいと考えた藤田先生は、早期診断・早期治療を実現するため、もの忘れ外来を前面に出すことに決めました。
現在、同院を受診している認知症の方は300名を超えていて、その多くが、もの忘れ外来を受診した方です。
初診の方に対しては、看護師が長谷川式簡易評価スケールやMMSE(認知機能検査)などの検査を実施し、問診票の情報をもとに、藤田先生が診察を行うとともに、認知症と似た症状がみられる甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症などの内科系疾患の有無を調べるために血液検査も行います。また、MRI画像を使って脳の萎縮度をみるVSRAD(早期アルツハイマー型認知症診断支援システム)が利用できる医療機関が近隣にいくつかあるので、ご本人が受診しやすい医療機関を選んでもらって予約をします。
「MRI検査は数日で実施してもらえることが多いので、血液検査の結果とあわせて10日間から2週間ほどで、診断結果をお伝えすることができます」(藤田先生)
診断結果の説明は、ご本人の性格やご家族との関係性などをみながら、臨機応変に行っています。人によっては診断結果を否定して怒りだすこともあると言います。そのようなときは、「歳をとると色々ありますよね」という柔らかい表現で説明し、進行を抑える薬があること、様々な工夫で生活上の問題を解決できることを告げ、治療に前向きな気持ちを持ってもらうことを優先します。
「逆に、病状や治療法をはっきりお伝えしたほうが、頑張ろうという気持ちになれる方もおられます」(藤田先生)
「当院の看護師は認知症だけでなく神経変性疾患についてよく勉強してくれており、さらに福祉サービスの知識も豊富なので助けられています」と藤田先生は語ります。
開業からしばらくの間は、院内で定期的に勉強会を開催し、スタッフの知識が増えてきた現在は、定例会議で情報のアップデートを行っています。業務の合間や終業後に、スタッフ間で相談や情報共有をしやすい環境づくりも大切にしています。
認知症と診断された方のなかには、医師の前では頭が真っ白になって、診察室を出たあとに、もう一度説明して欲しいと看護師に訴える方も少なくありません。
「医師には質問できないという方も多いので、看護師をはじめスタッフには、丁寧なサポートをお願いしています」(藤田先生)
また、同院では薬剤師が常勤しているため、院内処方を行っています。一人ひとりの病状や性格、家族の有無などを把握した上で、治療薬の正しい使用方法を伝えられるのは大きな強みです。
同院の一般内科を受診している方が、治療薬をきちんと服用できているか確認することで、認知症の徴候を知ることもできます。慢性疾患の場合、ご本人ではなく、ご家族が薬を取りに来ることもあり、受け渡しの際の薬剤師との会話が重要な情報になることもあるそうです。
同院では複数の訪問看護ステーションと連携をとっており、訪問看護師やケアマネジャーから、認知症の可能性がある方を紹介されることも少なくありません。
「訪問看護ステーションのスタッフの方はそれぞれ経験を積んでおられて、結果として認知症に強いステーション、パーキンソン病に強いステーションなどがあります。当院を受診している方が訪問看護や在宅支援を利用するときには、居住エリアも考慮しながら適切なステーションを紹介するようにしています」(藤田先生)
明石市には医師会が作成した、医師とケアマネジャーを繋ぐ連絡・相談シートがあり、藤田先生もこれを活用しています。FAXでのやりとりですが、気軽に連絡をとれる関係性が築かれています。
「現在は、新型コロナウイルス感染症の影響で開催できませんが、昨年まではケアマネジャーや理学療法士を対象とした勉強会も定期的に開催していました」(藤田先生)
地元の自治会からの依頼で、一般の方向けの勉強会を開催したこともありました。100名の定員を超える参加者が集まり、質疑応答では多くの質問が寄せられ、関心の高さを改めて感じたと言います。
「開業して5年目となり、当院で認知症の治療を受ける方も増えてきましたが、まだ、診断を受けていない方も多くおられるように感じています」と藤田先生は語ります。
「認知症かも」と心配するご本人やご家族にとって、受診のハードルが下がるようにと、ホームページも見やすさとわかりやすさにこだわっています。現在は、市民向けの勉強会の開催はむずかしい状況ですが、行政や地域のコミュニティと連携することで、早期受診に繋げていきたいと考えています。
「認知症医療に力を入れているクリニックとして、今後さらに存在感を高めて、この地域の認知症医療のネットワークで重要な役割を果たしていきたいと思っています」(藤田先生)