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専門医療の提供のみならず相談業務にも注力、
多職種協働で認知症の人の穏やかな生活を支援
<東京都杉並区 社会福祉法人浴風会 浴風会病院>

精神科医長 認知症疾患医療センター センター長 古田伸夫先生 精神科医長 認知症疾患医療センター
センター長 古田伸夫先生

社会福祉法人浴風会は、1923年の関東大震災で被災した高齢者を救護することを目的に1925年に設立されました。浴風会病院は1928年に開設され、それ以来、高齢者医療の専門医療機関として地域に貢献しています。2012年には東京都の指定を受けて認知症疾患医療センターを開設。鑑別診断など専門的な医療の提供はもちろんのこと、地域の関係機関との連携推進や人材育成にも力を注ぎ、認知症になっても幸せに暮らせる地域づくりに取り組んできました。2025年1月には、創立100周年を迎える歴史ある施設です。

高齢者医療のパイオニアとして地域の認知症医療をけん引

東京都杉並区にある浴風会病院は、高齢者医療を中心とした病院です。都区内とは思えないほど緑豊かで広大な敷地内にあり、内科系を中心に整形外科、眼科、リハビリテーション科など13科が設置されています。東京都の指定を受け、2012年に杉並区・中野区・新宿区の区西部を医療圏とする認知症疾患医療センターを開設し、精神科医の古田伸夫先生がセンター長に就任。医師2名、認知症看護認定看護師1名、精神保健福祉士4名、臨床心理士2名、作業療法士1名、事務職1名の体制で診療にあたっています。

同センターの地域での役割について、古田先生は「杉並・中野・新宿の3区には精神科病床や認知症病床を有する医療機関がありません。そのため、入院が必要なときには地域の医療機関から当センターに相談が寄せられ、当センターから他圏域の医療機関に入院を打診する流れを整備しています」と話します。また、近隣に認知症を診ている精神科の病院が少ないことから、BPSD(周辺症状)への対応について幅広く相談を受ける立場でもあるそうです。

先にご家族から病歴聴取、次にご本人の診察と2段階で診断

同センターには、ご家族を対象とした認知症相談と、ご本人を対象としたもの忘れ外来の2つの相談窓口が用意され設けられています。ご本人からの相談は、精神保健福祉士が内容を聞き取って外来受診につなぎますが、ご家族からの相談のときは、事前にご家族だけで来院していただき、医師が病歴やこれまでの生活歴、ご本人の性格などを詳しく聴取した上で、改めてご本人を診察するようにしています。両者から一緒に話を聞くと、ご本人がご家族の説明を聞いて怒りだしたり、ご本人を気遣ってご家族が言いたいことを言えなかったりすることもあるためで、古田先生は「認知症の診断には病歴の把握が重要です。先にご家族からじっくりとお話を伺うスタイルは心理教育を行うこともできるため、非常に有効だと感じています」と話します。

診断に際しては、MMSE(認知機能検査)や長谷川式簡易評価スケールのほか、Raven色彩マトリックス検査(RCPM)を行います。さらに、MMSEで24点以上だった方にはMCI(軽度認知障害)のスクリーニングとしてMoCA-Jを追加します。画像検査としてはCTやMRIを行っており、レビー小体型認知症が疑われるときには、他施設に依頼してSPECTやDATスキャンなど脳血流検査を追加します。また、前頭側頭葉変性症が疑われれば言語機能検査を行っています。

古田先生が2019年の1年間で診断した認知症の人のうち、約6割がアルツハイマー型認知症、2割がレビー小体型認知症だったそうですが、数は少ないものの、うつ病や前頭側頭型認知症が原因となっていることもあり、慎重に鑑別診断を行っています。前頭側頭葉変性症では失語など言語症状が現れることがありますが、早期に診断し、言語聴覚士が評価・介入することでご家族の理解が深まり、コミュニケーションがスムーズになることも多いと言います。

診断後は治療をしながら経過をみていきますが、古田先生は「医師にとっての治療は、抗認知症薬を使って進行を抑制し、定期的に認知機能検査を行って効果判定することと思われがちです。しかし、ご本人やご家族が望んでおられるのは生活障害の改善ではないでしょうか」と指摘します。

「診察時にはご本人やご家族のお話をしっかり聞いて生活状況を把握し、適切な介護サービスの利用をアドバイスするなど、QOL(生活の質)を維持するための方法を一緒に考えていくことを大切にしています」(古田先生)

外来から入院、在宅とシームレスに医療を提供

診療部長 神経内科医 雨宮志門先生 診療部長 神経内科医 雨宮志門先生

同院の診療部長で神経内科医の雨宮志門先生は、同センターでの外来診療のほか、訪問診療も担当しています。月1~2回の訪問時には診察や治療、薬剤の処方だけでなく、食事はきちんと取れているか、冷暖房は適切に使用できているかなど、生活の様子もチェックしています。また、同院では訪問看護・訪問リハビリテーションも実施していることから、一人暮らしの認知症の方に対しては、訪問診療・訪問看護・訪問リハビリテーションをそれぞれ別日に設定し、見守りの手を増やしています。同じ病院の多職種が同じ人のご自宅を訪問するので情報共有もしやすく、雨宮先生は「スタッフにとってもご本人にとってもメリットが大きいと思います」と話します。

さらに同院の敷地内には、社会福祉法人浴風会が運営する老人保健施設や特別養護老人ホーム、グループホーム、ケアハウスなどが併設されており、外来通院が難しくなれば訪問診療に切り替え、さらには入院、介護施設への入所と、シームレスに医療とケアを提供できる環境が整備されています。雨宮先生は、「今の医療では急性期、慢性期、終末期で担当医がそれぞれ変わります。特にご高齢の方は『誰が自分の看取りを手伝ってくれるのだろう』と不安を感じておられるのではないでしょうか」と、ご高齢の方々の気持ちに寄り添います。

「認知症の方に、『最期まできちんと診てあげるから、安心してくださいね』と伝えると、ホッとしたような表情を見せる方もおられます。看取りの場所が病院でもご自宅でも、施設でも、最期まで支えられる環境で診療できることは当院ならではのものだと感じています」(雨宮先生)

初期集中支援の経験を地域の対応力向上につなげる

同院では杉並区の委託を受け、2016年に認知症初期集中支援チーム事業をスタートさせました。チーム員のすべてが同院の職員で、雨宮先生のほか、看護師、社会福祉士、訪問リハビリテーションスタッフで構成されており、地域包括支援センターからの訪問依頼に基づいて月1~2件のペースで対応しています。「本事業の目的は、認知症の方が住み慣れた場所で穏やかな生活を続けられるよう支援することです。チームでの支援が終了した後は、ケアマネジャーを中心とした地域の資源を活用した支援に切り替えて、在宅生活の継続を目指します」と語る雨宮先生。しかし、実際にはご家族や地域から入院や施設入所を求められることもあり、ご本人の意思を尊重し、なおかつ周囲も受容できる“落としどころ”を見つけていくことも大切だと言います。

「認知症初期集中支援チームが関わっているのは、地域で起こっている問題のほんの一部にすぎません。しかし、たとえ微力であっても全く関わらないよりはいいはずです。かかりつけ医や地域包括支援センターのスタッフ、ケアマネジャーなど地域の専門職の方々に私たちのやり方を知っていただいて、今後の支援に生かしていってもらえればと思っています」(雨宮先生)

地域の“最後の砦”として難しい相談にも対応

医療相談・支援室長補佐 精神保健福祉士 高橋智哉さん 医療相談・支援室長補佐
精神保健福祉士 高橋智哉さん

同センターには4名の精神保健福祉士が所属しており、認知症に関わるさまざまな相談を一手に引き受けています。精神保健福祉士で医療相談・支援室長補佐の高橋智哉さんは、「当院には“認知症は医療を提供するだけでは不十分で、環境要因を重視すべき”という考えが浸透しており、医師の診療と同時にソーシャルワーカーが生活支援のために動いています」と同センターの体制について語ります。

相談窓口であるもの忘れ外来と認知症相談には、認知症を心配するご本人とご家族のほか、かかりつけ医やケアマネジャー、地域包括支援センターの職員、ヘルパーといったご本人やご家族を支援する人々に加えて、警察や郵便局などからも相談が寄せられることがあります。「当センターは、区西部における“認知症の最後の砦”のような存在です。対応がかなり困難だと思われるご相談にも応じています」と語る高橋さん。一方で、生活面での困り事など医療以外の相談に関しては地域包括支援センターやケアマネジャーにつなぐなど、医療でできることと地域で取り組むべきことを、入り口の段階で整理するよう心がけています。

また、高橋さんは「多職種で連携する際には各職種が自分の意見を押し通そうとするのではなく、専門家同士が譲り合いながら、何を最優先に支援すべきかを検討する必要があると思います」と語ります。

「対応が難しい認知症の方に向き合うと、私たち支援する側もストレスを感じ、心の余裕がなくなってしまうこともあります。ご本人やご家族に対してだけでなく、支援者同士の間でも優しさと思いやりを持って接することが、よりよい連携につながるのではないでしょうか」(高橋さん)

分野横断的に活動し、認知症の人の生活を支える

精神保健福祉士 認知症ケア専門士 中林亮太郎さん 精神保健福祉士 認知症ケア専門士
中林亮太郎さん

精神保健福祉士で認知症ケア専門士でもある中林亮太郎さんは、2020年5月に同院に入職し、同センターの専従スタッフとして業務にあたっています。ソーシャルワーカーとしていくつかの病院に勤務し、杉並区の地域包括支援センターでも働いたことがある経験から、「認知症の方とご家族のニーズにしっかりと応えていくには、医療と介護・福祉の両方の実情を把握しながら横断的に動いて、人と資源をつないでいくことが大切だと思っています」と語る中林さん。認知症の診断と専門治療は同センターが、日ごろの健康管理と経過観察はかかりつけ医が受け持つ“二人主治医制”の推進や介護サービスの提案など、地域の医療機関や介護機関との連絡・調整を行って、認知症の人とご家族が住み慣れた地域で安心して暮らせる仕組みづくりに奔走してます。

その他、同センター主催の家族介護教室や都営団地での無料健康相談会の実施、地域の専門職を対象とした認知症対応力向上研修会のコーディネート、同センターの取り組みやスタッフを紹介する「センターだより」の作成など、院内外を問わず多様な活動を展開。中林さんは自身の役割を「地域の営業マンですね」と笑顔で語ります。

「認知症の方々が住みやすい地域をつくることは、自分たち若い世代が将来、高齢になっても安心して暮らせる地域づくりにもつながっていると感じています。院内だけで完結するのでなく、積極的に外へ出て地域の実情を学びながら医療や支援につなげていけたらと思っています」(中林さん)

診断・治療だけでなく生活支援も医療者の責務

同センターでは認知症への理解を深める啓発活動にも力を入れています。雨宮先生は市民向けの公開講座などで話をする際、「“絶対になりたくない”と認知症を忌み嫌うのでなく、認知症になるまで長生きできてよかったとポジティブに捉えてほしい」というメッセージを伝えています。

「徘徊や暴力など、認知症にネガティブなイメージを抱いている方も多いと思いますが、そのような周囲の方の気持ちがBPSDなど認知症の症状に悪影響を及ぼしているように感じます。ご家族をはじめ周囲の方が思いやりを持って接し適切にサポートすれば、認知症があっても穏やかな生活を続けることができることを、地域の皆さんにも理解していただきたいですね」(雨宮先生)

雨宮先生の言葉にうなずきながら、古田先生は「診断技術が向上し、MCIの段階で見つけることができるようになったからこそ、生活面での支援が重要だと思います」と話します。

「症状の軽いうちからご本人を含めご家族や周囲の方々が認知症を正しく理解し、この先起こりうる変化に対して心の準備や生活支援を進めておくことで、ご本人のさまざまな言動にも思いやりを持って対応できると思います。認知症の方とご家族が住み慣れた地域で穏やかな暮らしを続けるための支援をすることは、根本治療のない病気を診断する側の責務なのではないでしょうか」(古田先生)

 

 

取材日:2020年9月24日
浴風会病院の外観

社会福祉法人浴風会 浴風会病院

〒168-8535
東京都杉並区高井戸西1-12-1
TEL:03-3332-6511

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