千葉県佐倉市のみつば脳神経クリニックは、認知症や脳卒中、頭痛、パーキンソン病など脳神経系の疾患を対象に、MRIを活用した正確な診断と専門性の高い診療を行っています。また、近隣の医療機関や看護・介護事業所、自治体の福祉関連施設などとも連携し、地域一体となって認知症の人とご家族を支えるクリニックとして地域に住む人々から厚い信頼を得ています。
院長の大木剛先生は、脳神経内科の専門医として、みつば脳神経クリニック開院時からMRIを導入し、認知症や脳卒中、頭痛など、脳に関わる疾患の診療を行っています。同クリニックの新規患者数のうち、約3分の1を認知症の人が占め、ご本人やご家族が心配して受診するほかに、地域包括支援センターからの相談や紹介などによる受診もあると言います。
認知症医療を提供する上で、大木先生は「きちんと“診断”し、“理解”してもらい、“連携”することを重視しています」と話します。
まず“診断”では、正確を期すため、同クリニックでは血液検査やMRIによる画像検査、MMSE(認知機能検査)を行い、除外すべき疾患をきちんと鑑別した上で、検査結果から総合的に診断を行っています。
診断時には、ご本人やご家族が理解しやすいよう、画像を見せながら「脳のこの部分に問題が生じて、このような症状が起きています」などと説明した上で、病名を正確に伝えるようにしています。
「以前、表現に配慮して病名を明言せず、遠回しにお伝えしたところ、ご本人やご家族が『認知症ではない』と解釈してしまったことがありました。もちろん、ご本人やご家族の様子に配慮しながら告知することになりますが、後で混乱が生じないよう、診断時にはなるべく正確に病名をお伝えするようにしています」(大木先生)
次に、“理解”については、特にご家族の理解が重要であると大木先生は考えています。
「認知症であるご本人の生活パターンを変えることは難しいため、ご家族に適切に対処していただけるように、認知症の症状や対処法を理解してもらうことが大切です。認知症の症状のうち、記憶力の低下などの中核症状は改善しにくいものですが、ご本人のBPSD(周辺症状)はご家族の理解や対応により、改善する可能性があります」(大木先生)
大木先生は、「全般的に、ご本人のBPSDが強いほどご家族の負担が大きくなる傾向があります」と話します。ご家族が病気について十分に理解できていないと、BPSDが見られたときに不安が強くなり、それにより認知症の人も不安が増大し、よりBPSDが強くなって家族の負担も増す、という悪循環に陥る可能性があります。その負の連鎖を断ち切るためにも、ご家族が病気を正しく理解し不安を軽減することが大切といえます。
同クリニックでは、定期的に認知症の進行度や治療効果の評価を行っていますが、ご家族の負担度についての評価もしていると言います。
「ご家族の負担には、病状の進行に伴う介護などの“直接的な負担”と、たとえば『習い事が続けられなくなった』『自分の時間がなくなった』など、それまでの生活ができなくなったことによる“間接的な負担”もあると考えられます。この間接的な負担は、ご家族が認知症について正しく理解することで軽減される可能性があります」(大木先生)
もうひとつ、大木先生が重視していることが“連携”です。まず、介護事業者や介護スタッフとの連携が行えるよう、認知症の診断後には、認知症の人やご家族に介護保険の申請を勧めています。
「認知症など脳の病気の治療では、薬とリハビリが必要です。この場合のリハビリとは、会話をすること。その機会をつくる場のひとつがデイサービスであり、介護サービスを利用することも治療のひとつとご説明します」(大木先生)
「介護とのつながりをつくっておくことは、今後進行していく症状への備えとしても大切なことです」と大木先生は話します。また、リハビリとしては、サークル活動やボランティア活動、仕事をしている人は継続することなども有用だと言います。
大木先生は、佐倉市の認知症対策会議や、近隣地域での医療・介護連携のための会議に参加したり、周辺の大学病院や総合病院、訪問診療施設と連携を図ったりと、地域連携にも積極的に取り組んでいます。それにより、同クリニックを受診した人に、より詳しい検査が必要になったときや、合併症により入院が必要になったときにスムーズに受け入れを依頼できるなど、迅速な対応が可能となっています。
受け付け業務や電話対応を行う事務の加藤明美さんも、常に認知症の人やご家族に思いを寄せるスタッフの一人です。
「ご本人やご家族が受診するまでには多くの不安や葛藤や、説得などの過程があり、やっとの思いで受診されたという方もいらっしゃると思います。受付は、クリニックで最初にご本人に接するところなので、少しでも緊張をほぐしていただけるよう、笑顔でていねいに対応することを心がけています」(加藤さん)
来院した人であっても、待ち時間に気持ちが変わったり、イライラが募ったりして、「もう帰る」と外に出ていってしまうこともあると言います。
「そういうときは、一緒に外のソファに座って、『せっかく来てくださったのだから先生に会っていってくださいね』とお話しして心が落ち着くまで待ち、診察前に院内に入っていただいたこともあります。なんとか先生につなぎたいという思いでお話しします」(加藤さん)
待合室での様子をよく見ている加藤さんだからこそ、気づくこともあります。妻の診察に付き添いで来ていた男性が、保険証をなくしたり、診察の予約を忘れたりすることが増え、そのことを大木先生に伝え、ご本人の受診やケアマネジャーの介入につなげたことも。「何かあったとき、すぐ情報共有できるのが小さなクリニックの強み」と加藤さんは言います。
一方で、新型コロナウイルス感染症の流行により受診に不安を抱く人がいることや、患者さんとのコミュニケーションが困難な状況に懸念も抱いています。
「マスクをしている上に受付カウンターがアクリル板で仕切られていると、特にご高齢の方との会話が難しいことを感じます。そういう状況下でいかにコミュニケーションを図り、安心して来ていただける場所であり続けるかを模索しています。受診が不安という方には、診察直前まで車の中でお待ちいただくとか、順番が近づいたら電話をするなど個々に応じた提案をしながら、とにかく受診を途切れさせないようにと心がけています」(加藤さん)
認知症の人やご家族に、医療者や介護者とのつながりを維持してもらうことが、認知症医療では非常に大切なことであり、同クリニックは、その“つなぐ役割”を果たしていきたいと考えています。
「今後は認知症専門医だけでなく、かかりつけの先生方とも連携し、生活習慣病の治療などとあわせて地域全体で認知症のケアを継続していくことが必要と言えるでしょう」と指摘する大木先生は、認知症医療と介護をつなぐ、佐倉市の情報連携シート「さくらパス」の活用を含め、医療と介護、それに付随する手続きなどを地域で分担し、認知症の人とご家族をサポートしていく体制づくりができればと願っています。