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“患者の方は自分の家族”という思いで、長く寄り添い支えるケアを
<福岡県筑後市 寺﨑脳神経外科>

院長 寺﨑瑞彦先生 院長 寺﨑瑞彦先生

大学病院での豊富な経験を活かし、さまざまな脳疾患に対し専門性の高い医療を提供している寺﨑脳神経外科。院長の寺﨑瑞彦先生は“患者の方は自分の家族”という思いをもって、認知症の方とそのご家族を手厚いケアで支えています。

脳腫瘍の研究・治療の中で認知症に出会う

寺﨑脳神経外科の院長、寺﨑瑞彦先生は1995年から21年間、脳神経外科医として久留米大学病院で診療に従事。その間、カナダのトロント大学小児病院脳腫瘍研究所で研究活動を行うなど、脳腫瘍の治療に力を注いできました。

診断をつけた患者の方はずっと診続けるというのが、当時も今も変わらない寺﨑先生の基本姿勢。腫瘍の治療を続ける過程で認知症状が現れる方にたびたび出会ったことが、寺﨑先生が認知症に向き合うきっかけになりました。

「特に悪性リンパ腫のような腫瘍の場合、治療の後かなり多くの方に認知症が確認され、ゆっくり進行していきます。そうした患者さんとご家族の生活を支えるにはどうすればいのか、医師に何ができるのか。その方法を自分なりに模索するうちに、腫瘍だけではなく認知症の症例や治療法も本格的に研究するようになったのです」(寺﨑先生)

先生は大学病院での経験を地域医療に活かすため、2016年筑後市に同院を開業。脳神経外科・小児脳神経外科・リハビリ科を診療科目とし、頭痛、めまい、もの忘れなどに悩む方が気軽に相談できる診療所として、多くの患者の方を支えています。

ご本人とご家族、等分に話を聞く

もの忘れなどを心配して来院された初診の方に対して、寺﨑先生は日常生活の様子、困りごとなどを詳しく聞き取りを行い、それが例えば健忘なのか注意障害なのか、あるいは幻覚なのかを推定しながら、頭の中で患者の方の言葉を整理します。

開放的で明るい待合室 開放的で明るい待合室

「『最近は畑で何をつくっとるの?』など雑談のような話もしょっちゅうしますが、そこから入っていかないと話してくださらない方も多いですから」(寺﨑先生)

ご家族が同伴されている場合は併せてお話を聞きますが「ご本人とご家族のお話に乖離があるのが前提」だと寺﨑先生は言います。

「ご本人は『私は大丈夫』だと言い、ご家族は『困っている』と言う。これはよくあることで、医師がどちらかを否定してはいけません。それぞれのお話をじっくり聞くことが大切です」(寺﨑先生)

問診と併せて、しびれや麻痺などの神経所見をとり、脳の中にどんな問題が起こっているかを想定した上で、院内に備えたMRIで画像診断を行います。そして、長谷川式簡易評価スケールやMMSE(認知機能検査)で認知機能を評価。これらを総合して診断をつけます。

「こうした検査によって手術で治療できる脳の疾患を見つけることができますが、それは脳神経外科医であれば当然のこと。例えば“認知症状だけではなく言語障害も出てくるのでは”など、次にどんな症状が出そうか想定しながら診療できるのが脳神経外科医の強みだと思います」(寺﨑先生)

“困っていること”を治療のターゲットに

同院の周辺地域は高齢化が進みつつあり、高齢者の独居や夫婦二人だけで生活、娘・息子との同居など世帯のありようはさまざま。寺﨑先生は、認知症の初診の方に告知する際、それぞれの生活状況や症状を考え合わせ、慎重に言葉を選んでいます。

「独居の方は診察に来られる時点で自覚されている場合が多いので、割とはっきりと『そうですね。もの忘れが出ているようですね』と言います。ご夫婦やお子さんがおられる場合はご家族の中に入るようなかたちで、『生活の中でここに注意しましょうか』など一歩引いた感じでお話しすることが多いですね」(寺﨑先生)

そして先生は治療を進める上で「ターゲットを絞ることが大切」だと指摘します。それはすなわち、症状のどこに治療の重点を置くかということ。「ご本人やご家族がいちばん困っていること、それがターゲットです」と、先生の方針は明解です。

「言い換えれば、もの忘れなどがあったとしても、普段の生活で困っていなければ治療する必要はありません。独居の方であれば食事やトイレはどうしているのか、ご家族が普段対応に苦慮されているのはどんなことなのか。私は常に自分も家族の一員だという思いで認知症の方に接していますし、そうした姿勢が伝わり信頼関係が生まれれば、困りごと、悩みごとを話されるようになりターゲットが見えてきます」(寺﨑先生)

“患者さんは自分の家族”という思いは全スタッフに

同院に通院中の認知症の方の中には、朝一番に来院するものの受付はせず、待合室で他の患者さんと雑談している方がしばしばいます。

「話だけして家へ帰ってしまう方もいますが、まったくかまいません。患者さんが患者さんの様子を見てくれているようなものなので、むしろ助かっていますよ(笑)」と寺﨑先生はおおらか。

看護師 沖田由子さん 看護師 沖田由子さん

看護師の沖田由子さんは「私に時間があるときは『散歩しとる?』『最近、釣りはどうね?』など、患者さん同士の会話の中に入っていますよ」と微笑みます。

同診療所のスタッフは受付3名、看護師5名、検査技師2名の計10名。“患者さんは自分の家族だと思って接する”という姿勢は、全てのスタッフに共有されています。

沖田さんは「何よりも認知症の方のプライドを傷つけないこと、できるだけ早く信頼関係を築くことを心がけています」と言います。

「認知症の方の中には、怒りっぽい方や診察の順番を待てない方もおられます。そうした方に対しても私たちが穏やかに接していれば、だんだん落ち着いてこられます」(沖田さん)

患者さんの対応に加え、ご家族からの相談を受けることも多く、いつもより表情が暗い方を見かけたら、沖田さんの方から積極的に声をかけています。

「お困りごとなどを聞いて、日常の中でできる対応などをアドバイスしています。認知症のケアにはご家族など周囲の方の支えが不可欠。そのご家族が疲れ切ってしまわれないようサポートすることも、私たち医療スタッフの役割だと思っています」(沖田さん)

ケアマネジャー、ヘルパーと密に連携

同院は、地域の福祉・介護関係者と密に連携しており、例えば、以前に診察した患者の方の状況などについてケアマネジャーから連絡を受けて、認知症状に変化がないか確認しています。

「うちは他の診療所に比べて敷居が低いのでしょうか(笑)ケアマネさん、ヘルパーさんとは電話、ファクス、連絡表などでひんぱんにやりとしていますし、来院されることも多いです。『あの患者の方の次回の診察を早めにしてはどうか』など、具体的な助言をもらうこともあって助かっています」

そう語る先生は「特に認知症の方は介護保険を積極的に使って、ケアマネさんなどにどんどん相談してほしい」と訴えます。

「認知症の方には、治療を始める時点で介護保険を使うようお伝えしています。例えば、外出することは認知症の方にとって良い刺激になりますので、デイサービスにはぜひ行っていただきたいですし、私から適切と思われる施設をご案内することもあります。こうしたサポートをうまく活用することが、認知症ケアの大切なポイントだと思います」(寺﨑先生)

地域連携の中で、長くご家族に寄り添うケアを

集合写真寺﨑先生とスタッフの皆さん

BPSDが強く出てきた方は精神科の専門医に紹介するなど、同院は地域の医療機関とも提携しており、今後の認知症ケアを考える上でも「地域の医療・介護関係者間のコミュニケーションは非常に重要」だと寺﨑先生は指摘します。

「認知症の方の日常の行動のケアが充分にできていないケースが多いことを考えれば、認知行動療法が今後重要だと思います。それを実践するには、精神科の先生や心理療法士との連携が必要です」(寺﨑先生)

先生はこうした連携を図りつつも、自分が診断をつけた方は自分の家族だと思ってできるだけ長く診ることを診療の基本においています。

そんな先生には、患者の方の奥様から言われた忘れられない言葉があります。

「その奥様は、認知症のご主人が投げる便を片付けるなどケアにはたいへん苦労をされたのですが、ご主人が亡くなられたあと私に挨拶に来られて、こう仰ったのです。『自分の大切な人のために、たくさんの時間を使ってくださってありがとうございました』と。これからも私は患者の方とご家族に寄り添い、お力になれるよう努力を重ねていきます」(寺﨑先生)

 

 

取材日:2020年9月10日
寺﨑脳神経外科の外観

寺﨑脳神経外科

〒833-0031
福岡県筑後市大字山ノ井754-1
TEL:0942-42-1234

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