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市の認知症検診事業に尽力、
専門医として認知症とともに生きるまちづくりに挑む
<埼玉県草加市 神谷醫院>

院長 神谷達司先生 院長 神谷達司先生

埼玉県草加市の神谷醫院は、現院長である神谷達司先生の父が1958年に開業した歴史ある医院です。神谷先生は日本医科大学を卒業後、同大学内科学講座准教授、岡山大学大学院脳神経制御学講座神経病態内科学准教授などを経て、2008年に同院の院長に就任しました。以来、専門である脳神経内科の疾患を中心に、生活習慣病の管理や風邪、腸炎、ぜんそくなど内科疾患全般を幅広く診療してきました。また、草加市が実施している認知症検診では専門医療機関として鑑別診断を行うなど、地域の認知症医療でも大きな役割を担っています。

認知症を疑う人が受診しやすい環境を整備

岡山大学大学院に着任後、認知症の研究に携わったことをきっかけに本格的に認知症診療に取り組むようになったという神谷先生。大学病院の外来でも認知症の人の受診が増えていると感じ、日本認知症学会専門医の資格を取得するなど研さんを積んできました。

明るく開放感のある待合室 明るく開放感のある待合室

現在、同院には1日に約150人の患者さんが来院し、そのうち約2割を認知症の人が占めています。さらに、平日午後の認知症外来では初診の方を1日に2名診察し、認知症の鑑別診断を行っています。診断には時間がかかるため、認知症外来にかかりきりになることもありますが、近隣の大学病院から脳神経内科専門医を招いて2外来制とすることで、認知症と他の疾患の診療を両立しています。

「認知症かもしれないと不安を抱えているご本人・ご家族が気軽に受診できる、“敷居の低い”クリニックを目指しています。開業医が一人で多くの認知症の人を診察するのは大変ですが、経験豊富な先生方にご協力いただくことで積極的に受け入れられる体制を維持しています」

鑑別診断は神谷先生が担当していますが、診断後の定期受診の際には他の医師も診察にあたっており、常に治療方針や経過などを情報共有しています。ときにはMRI画像を見ながらの意見交換や大学病院での精査を依頼するなど、病診連携や医師同士の横のつながりを生かして、地域ぐるみの認知症医療を実践しています。

診断だけでなく介護保険の申請にも迅速に対応

認知症外来の予約は同院のホームページから行うことができます。電話で予約を取る方もいますが、地域包括支援センターで受診を勧められ、予約方法を教えてもらって予約を入れる認知症の人やご家族が多いそうです。神谷先生は「まずは受診していただくことが大切です。また精査の結果、認知症でないことが分かれば、ご本人やご家族の安心にもつながります」と語り、基本的にはもの忘れの症状に不安を感じている人なら誰でも診察しています。

2015年に導入した1.5テスラMRI 2015年に導入した1.5テスラMRI

同院は1.5テスラMRI装置を導入しており、受診当日に検査が可能です。診断に際しては、頭部MRIやVSRAD(早期アルツハイマー型認知症診断支援システム)などの検査に加え、甲状腺機能低下やビタミンB12欠乏症、心房細動など認知症の原因となり得る疾患を見極めるための血液検査や心電図検査、X線検査、頸動脈超音波検査などを行います。また、レビー小体型認知症が疑われる方には、近隣の総合病院に依頼してDATスキャンを追加します。

MMSE(認知機能検査)などの神経心理検査を神谷先生が行う際には、もの忘れの程度やご本人がどのようなことに困っているのかを理解できるよう、ご家族にも同席してもらっています。一方、ご本人がMRI検査を受けている時間を利用して、ご家族からご本人の前では話しにくい悩みや相談事を聞き取ります。また、必要に応じて介護保険の申請もその日のうちに行っており、迅速な診断とともにスピーディに介護保険サービスにつなげることも意識しています。

MCIの段階で早期発見し、進行予防や改善に努める

同院では認知症の人の約6割がアルツハイマー型認知症ですが、神谷先生は「最近はレビー小体型認知症が増えている印象があります」と話します。レビー小体型認知症は幻視や妄想、レム睡眠行動障害などの症状が特徴です。介護に苦労されるご家族も多く、精神症状の強い方は近隣の精神科病院と併診するなどして対応しています。

また、鑑別診断の結果、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)に該当する方も多いそうです。神谷先生は「今は認知症へ続く橋を渡っている途中ですが、対策を取ることで元の状態に戻せる可能性もありますよ」などと、ご本人が前向きな気持ちになれる言葉をかけ、デイケアを利用して脳のトレーニングに取り組むよう勧めています。また、海馬の萎縮の程度を確認するため半年おきに画像検査を行うほか、高血圧や糖尿病、脂質異常症の管理を行って認知症への進行予防に努めています。

市と医師会が連携し、認知症検診がスタート

同院のある草加市では全国に先駆けて、2014年に認知症検診を開始しました。これは神谷先生を中心に、草加八潮医師会から同市に働きかけて実現したものです。「医療機関を受診していただければ何かしらの対策を取ることができ、今まで通りの生活を送ることも可能です。しかし実際には、認知症を心配しながらも病院には行きたがらない方もおられます」と、認知症の早期発見の難しさを感じていた神谷先生。少しでも検査を受けやすくするために、特定健診・後期高齢者健診と併せて受診できるシステムを市に提案しました。

検診では、まず16の質問項目からなる問診票「脳の健康度チェック票」に回答してもらい、その結果をかかりつけ医が確認。認知症の疑いありと判断した市民には専門医のいる医療機関を紹介し、鑑別診断につなげます。また、専門医の精査で認知症と診断された場合はかかりつけ医に逆紹介し、かかりつけ医の下で治療を行うのが原則です。その理由を神谷先生は、「専門ではない先生方にも診療経験を積んでいただくことで、地域の認知症医療のボトムアップを図りたいと考えています」と話します。

「もの忘れの症状があるからといって、必ずしも認知症とは限りません。安易な抗認知症薬の処方を防ぐためにも、かかりつけ医から専門医へ精査を依頼するルートを整備しておくことは重要です。また、通い慣れたクリニックで認知症の治療と健康管理の両方を受けられればご本人・ご家族も安心でしょう。地域包括ケアシステムを推進する意味でも、かかりつけ医と専門医が連携して診療するメリットは大きいと考えています」

当初は予算の関係で65歳以上の奇数年の市民に限定されていましたが、現在は65歳以上の全ての市民が検診の対象になっています。さらに、医師会が費用を負担して、60歳の市民も還暦祝いとして無料で検診が受けられるようになりました。神谷先生は「若年性認知症の方を見つけるためでもありますが、認知症予防の意識を高める狙いもあります」と語り、65歳からの受診の動機づけになればと期待しています。

地域包括ケアシステムの実現を目指して

「認知症検診が始まってから、草加市民の認知症に対する理解が深まってきたように感じています」と笑顔を見せる神谷先生。「病名の告知の際にご家族から『本人には認知症だと言わないでください』と頼まれることが多かったのですが、最近はご本人だけでなく、周囲の人にも認知症を隠さないご家族が増えてきました」と話します。認知症に関する市民公開講座を開催すると定員500人の会場が満席になるほど。同市の認知症検診事業がテレビで取り上げられたり、複数の地方自治体が視察に訪れたりしたこともあって、「まちぐるみで認知症に取り組んでいこう」という機運の高まりを感じているそうです。

その一方で、神谷先生は「近年は一人暮らしの高齢者や高齢者だけの世帯が増え、周囲の人が認知症の初期症状に気づきにくいのが実情です」と、地域の課題を指摘。「まずは家の中に閉じこもりがちな高齢の方に、外に出てきてもらうことが肝心です。認知症検診もそのひとつですが、今後も認知症の早期発見と進行予防につながる働きかけを強化していきたいですね」と、今後の展望を語ります。

「高齢化の進展に伴い、認知症の方の人数も増えていくでしょうが、基本的に医療と介護、生活支援が草加市内で完結することが理想です。かかりつけ医と専門医の連携だけでなく、介護職や行政とも協力し合いながら、“認知症になっても自立した生活を長く続けていけるまち・草加”を実現したいと思っています」

 

 

取材日:2021年1月21日
神谷醫院の外観

神谷醫院

〒340-0017
埼玉県草加市吉町3-1-3
TEL:048-922-2616

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