日高山脈と太平洋に囲まれた北海道日高郡新ひだか町。その自然豊かで比較的温暖な地にある中村脳神経内科クリニックでは、高性能MRIによる迅速な診断で認知症の早期発見・治療に尽力しています。また、運動療法の導入など、認知症のみならず脳血管疾患やその原因となる生活習慣病の治療と二次予防にも積極的に取り組み、地域の人々の健康をサポートしています。
院長の中村宏先生は、脳神経外科での研修医時代から長年認知症の診療に携わってきました。そのなかで、約20年前に応援医師として当地域の総合病院に勤務していたときに、脳卒中後の管理と生活習慣病の予防にもっと力を入れたいと感じたと言います。
「当地域の特性として、高齢者が多いこと、競争馬育成を行う畜産業や昆布漁を中心とした漁業が盛んであることが挙げられます。繁忙期には家族が多忙になり、高齢者の受診への付き添いが難しくなることも多くあります」(中村先生)
そこで、脳血管疾患やその原因となる高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の治療や二次予防を目的とした専門性の高い医療を、地域の人々が通いやすいクリニックで提供したいという思いから、2002年に中村脳神経内科クリニックを開院しました。
同クリニックは地域で唯一の脳神経内科・外科領域の疾患を診療する施設として、認知症、頭痛やめまい、脳梗塞など脳に関わる疾患の治療に取り組んでいます。高性能MRI装置を備え、AI(人工知能)診断補助システムを導入。認知症の検査では、海馬の体積を測定するVSRAD(早期アルツハイマー型認知症診断支援システム)に加え、脳の血流分布を調べるASL(arterial spin labeling)検査、神経のネットワークを調べるトラクトグラフィーなども行います。検査のために他院を受診する必要がなく、初診日に診断できる迅速さと専門性の高さが同クリニックの強みといえます。
認知症で受診するきっかけは、「ご家族による勧め」が多いとのこと。もの忘れや、家庭でそれまでできていたことができなくなったという相談が多いと言います。そのため、初診時にはまず、ご本人とご家族それぞれに、家庭での様子や気になっている症状などについて詳しく問診します。その後、神経心理検査やMRIによる画像検査をし、診断を行います。
認知症の診断においては、「適切な鑑別診断が重要です」と中村先生は言います。
「ご本人が『もの忘れが心配』と受診される場合、うつ病など、別の病気が原因であることもあります。うつ状態になると覚えようという意欲が低下するため、もの忘れの症状がみられることがあるのです。初老期のうつ病は、原因として甲状腺の機能低下などの病気が隠れていることもあり、その場合は原因疾患の治療を行います」(中村先生)
MRIを実施する場合、検査やデータ解析、説明などで患者さん1人に1時間ほどかかります。予約制にしていますが、急な体調不良などで検査を希望する予約外の患者さんの受け入れもあり、待ち時間が長くなってしまうこともあると言います。
待ち時間の短縮のため、同クリニックでは13名のスタッフが連携して診察の効率化を図っています。作業療法士で診察補助にもあたる越後沙弥さんは、「患者さんの大事な時間をいただいているので、診察前のスタッフによる問診や当院独自のシステムを活用し、できるだけ効率よく診察が進むよう心がけています」と話します。
受け付け後にスタッフが問診を行い、主訴や患者さんの様子などを電子カルテに入力。中村先生が目を通してすぐ診察できるようにしています。また、院内各所にパソコンを設置し、受付、処置室、検査室など患者さんが移動するたびに入力することで、患者さんが院内のどこにいるかを一目で把握できるシステムを開発。スタッフは画面を見ながら「この患者さんは検査中だから先にこの患者さんの採血を」「この患者さんは薬をもらうだけだから早めに診察室へ」など、診察や検査の順番を調整しています。
越後さんは、「ご家族に連れてこられた方は、どこに来たのかと不安を抱いていることも多いため、明るい声であいさつし、わかりやすい言葉を用いてお話を聞くようにしています」と話します。また、診察時に、ご家族の「すぐ忘れてしまう」「何もできない」などの言葉を認知症の人が耳にし、自尊心が傷つけられてしまう恐れもあるため、希望に応じてご家族と先生だけで話をする時間も設けています。
認知症と診断された後の生活について、中村先生は「できる家事や趣味などはなるべく続けることが大切です」と話します。認知症でも、慣れた作業や印象的な出来事の記憶は残ることが多く、これまでの生活で習慣的にしていたことや楽しんでいたことを続けることで、認知機能の活性化を促すことが期待できるからです。
「家庭ではご本人ができることを続けられるように環境を調整していただき、成功体験から自信や意欲を高められることが大切です。ご家族にはそのように伝え、ご本人の意思を尊重し、否定したり怒ったりせず接していただくようお話ししています」(中村先生)
同クリニックでは、脳・神経系の病気だけでなく、糖尿病や高血圧など生活習慣病の治療や予防にも積極的に取り組んでいます。そのなかで、越後さんは「一人ひとりの患者さんに応じた関わりを大切にしています」と言います。
「病気の後遺症などで歩行が困難な方や、難聴で聞き取りにくい方、視力が低下している方など、患者さんの疾患や身体の状態に応じた声かけや介助を心がけています。病気のことだけでなく、ご本人やご家族の不安や悩み、ご家庭での様子など、来院時に話してくださったことを十分に理解し、生活に寄り添った関わりを持てるよう努めています」(越後さん)
中村先生はスポーツドクターでもあり、認知症や生活習慣病の治療・予防の一環として運動療法にも積極的に取り組んでいます。
認知症になると、身の回りのことができなくなるなど日常生活での活動が減ってしまうことが多く、筋力や持久力、関節の可動域など、身体機能が低下する恐れがあります。運動は血流の促進や脳の活性化につながり、認知機能やADL(日常生活動作)の改善が期待できるとされています。
「ラジオ体操など身体を動かす順番を考えながら運動することは脳の活性化につながります。いつも通る道を散歩する、昔していたスポーツをするなど回想法を取り入れた運動療法により認知機能の維持・改善や精神状態の安定が期待できます」(中村先生)
同クリニックに併設された「ローズメディカルフィットネス」では、中村先生の指導・計画に沿って、安全に楽しく運動できるようトレーナーが指導しています。患者さんの疾患や身体機能に応じて、マットでの運動、いすに座っての運動、立って行う運動に分かれ、ストレッチや筋力トレーニング、有酸素運動などを行います。
認知症の人は、運動の内容を忘れてしまうこともあるため、トレーナーの下斗米由貴さんは、「そばについて、患者さんには私たちの動きを見ながらまねしてやってもらえるようにしています」と話します。来館時に不安そうな表情をしている方もおり、そのようなときにはスタッフが外まで迎えに出て一緒に入館します。
スタッフがご家族に頼み、運動の日は自宅で朝から靴を出しておき、「今日は運動に行く日だよ」と声をかけてもらったり、事前にスタッフが電話で「一緒に運動しましょうね」と伝えたりと、安心して来られるよう配慮しています。
「『肩が痛くて眠れなかったけど、楽に眠れるようになったよ』『来るのが楽しみ』と言っていただくなど、運動を続けることで患者さんの体調や表情に良い変化がみられたときはうれしく、一緒に喜んでいます。今後も楽しく運動を継続していただくことを目標に、取り組みを続けていきます」(下斗米さん)
中村先生は、今後の認知症医療について、「この病気と共存しながら生活していく意識を持つことが大切」と話します。
「認知症や生活習慣病の治療のみならず、病気の進行や併存症を予防するための環境を提供することで、地域に暮らす方々の健康に貢献できるクリニックを目指していきたいと考えています」(中村先生)
医療法人桃輝会 中村脳神経内科クリニック
〒056-0022
北海道日高郡新ひだか町静内高砂町3-9-85
TEL:0146-43-0911
医療法人桃輝会 ローズメディカルフィットネス
〒056-0022
北海道日高郡新ひだか町静内高砂町3-9-83
TEL:0146-43-0913