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もの忘れ相談医と連携して医療を提供、多職種でサポートする体制づくりも
<埼玉県越谷市 越谷市立病院>

越谷市立病院の外観

越谷市立病院は、東京のベッドタウンとして人口約35万人(2020年12月1日現在)と県内で4番目の規模に発展した越谷市にあります。内科、神経内科、呼吸器科など数多くの診療科を標榜し、周産期医療も行っており、越谷市民はもちろんのこと吉川市や三郷市など近隣市町を含む埼玉県東部医療圏の住民に欠かせない存在です。認知症への対応は、神経内科が積極的に取り組んでおり、来年度には入院患者さんに対応する認知症ケアチームの発足を予定しています。

ご本人の世界観を大切にした関わりを

神経内科部長 中村真一郎先生 神経内科部長 中村真一郎先生

越谷市立病院の神経内科は、神経内科を標榜する医療機関や、神経内科の病床を有する医療機関が少ない埼玉県東部にあるため、6市1町という同院の医療圏を超えて患者さんを受け入れています。

認知症医療を提供するにあたっては、神経内科部長の中村真一郎先生が現在、外来と病棟の両方で認知症の人に対応し、多職種のチームでよりよい治療・ケアを行うための体制づくりに注力しています。

中村先生は、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター時代に、認知症医療の研さんを積みました。

「同センターは認知症医療の理想形ともいえる環境でした。内科・外科がひととおり揃い身体疾患の治療ができるのはもちろんですが、精神保健指定医がいるメンタル科(精神科)があり、一般の病院では入院が難しいようなBPSD(周辺症状)がある認知症の方も身体疾患の治療で入院ができました」(中村先生)

当時、中村先生は精神科医の診察にも同席し、神経内科とは異なる精神科のアプローチから深い学びを得たと言います。認知症の人に被害妄想があり、自分が置かれている環境がいかにひどいかを診察時に語るようなとき、精神科の先生は否定することなく相槌を打って聞いていたのだそうです。

「そうすると、ひととおり話した認知症の方はすっかり落ち着いて穏やかになりました。認知症の方にはその人なりの世界観があり、ご本人にとってはそちらが正しいのです。否定してはならないと頭ではわかっていましたが、アプローチの手本を見ることで得たものは大きかったですね」(中村先生)

診断後は市の「もの忘れ相談医」に紹介して治療を継続

同院は、認知症の診断をつける際に、長谷川式簡易評価スケールやMMSE(認知機能検査)、さらにより高度な神経心理検査は専門の資格を持つ臨床検査技師が行い、診断の精度を上げています。また、検査設備も充実しており、MRIだけでなく、核医学検査や脳波検査ができる設備を整え、必要に応じて画像検査を行っています。

中村先生は、認知症になるのは恥ずかしいことや特別なことではないという考えから、診断がついたらご本人にきちんと告げ、「長生きしていれば誰でもなるものです」と伝えます。ご家族には、治療のゴールが治癒ではないことを理解してもらいます。

越谷市では、認知症の対応ができる「もの忘れ相談医」がいる医療機関が30を超え(2020年2月時点)、その多くがかかりつけ医です。認知症の診断がついたら、もの忘れ相談医に紹介し、もの忘れ相談医のもとで治療を続けていきます。その理由について、中村先生は「高齢者の多くが認知症以外に高血圧や糖尿病などの疾患を抱えているためだ」と言います。

「認知症の治療だけであれば、認知症専門医のもとで治療をしたほうがいいのかもしれませんが、ほかの疾患があればかかりつけの先生に総合的に診ていただくほうがよいと思っています。介護保険の主治医意見書作成の面でもメリットがあります」(中村先生)

神経内科は順天堂大学とも協力体制に

同院の神経内科は順天堂大学医学部脳神経内科の関連施設であり、市内にある順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院とも協力体制を築いています。順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院は精神科医療の中核病院であり、精神科病床もあるため、BPSD(周辺症状)が強い場合などに協力を仰げる体制が整っています。

多職種による認知症ケアチームでよりよい入院生活を目指す

入院患者さんは高齢者が多く、認知症があったり、入院という環境の変化からせん妄などの症状があらわれたりします。そのような患者さんが安心して医療やケアを受けられるように、同院では中村先生はじめ多職種がチームとなって活動する「認知症ケアチーム」発足の準備が進められています。

看護師の篠崎越子さんは、認知症看護認定看護師として、認知症ケアチーム立ち上げの準備のかたわら、中村先生と一緒に病棟のラウンド(回診)を行っています。中村先生と篠崎さんが病棟スタッフからの相談に乗り、対応が必要な認知症の人をラウンドで確認して、薬剤調整の必要性を確認したり、病棟スタッフにケアの仕方についてアドバイスしたりしています。

「すぐに変化があるわけではありませんが、薬の調整や病棟スタッフが日々適切なケアを行うことで、認知症の方の状態も改善され、安心して入院生活を送っていただけるようになっていると思います」(篠崎さん)

チームの活動が始まる来年度からは、薬剤師、臨床検査技師、ソーシャルワーカー、栄養科、リハビリスタッフも活動に加わり、認知症の人を支えていきます。

認知症看護認定看護師は、スタッフの教育という役割も担っています。篠崎さんは、認知症の人への対応の基本をまとめたケアマニュアルを作成し、スタッフの対応力向上を図っています。

「認知症の方はコミュニケーションをとるのが難しいことも多いですが、だからといって本人の声を聞かずに周りの人やケアする人の意見に偏ってはならないと思っています。生まれた土地や生活歴、大切にしていることなどを引き出していって、会話の中に取り入れると、パッと目を輝かせる方もいるので、うまく看護に生かしていきたいですね」(篠崎さん)

看護師が多職種の要となって認知症の人の情報を共有

看護部副看護部長の林三和子さんは、入退院支援を行う中で認知症の人やご家族と関わってきました。林さんは、急性期病院である同院で認知症の人が安心して医療を受けられるよう、入院時から多職種のチームで認知症ケアチームに取り組む必要があると考えています。その中で、看護師は患者さんの生活環境や家族状況、性格など、把握した情報を多職種・認知症ケアチームと共有し問題解決につなげる役割があると話します。

退院支援では、各病棟の看護師、退院調整担当看護師や社会福祉士が退院後の療養生活の意向をご本人に聞き取り、得られた情報をカンファレンスなどで共有します。退院後の生活を支える地域のケアマネジャーや訪問看護師ともカンファレンスを行い、ご本人をどう支えていくかを話し合っていくそうです。

「もちろんご本人のご意向も確認します。認知症の方は意思表示が難しい場合もありますが、だからといってご家族の意向だけで退院後の生活を決めるのは避けたいですから、ご本人の意向を大切にしたいと思っています」(林さん)

「認知症をクローズアップするのではなく“その人らしさ”を把握したい」と語る林さんは、認知症ケアチームのサポートを行っていくことも予定しており、中村先生が開催を希望している認知症カフェなどもいずれは実現させたい考えです。

認定認知症領域検査技師が神経心理検査を実施

神経心理検査を担当する診療部臨床検査科副技師長の桑原千津香さんは、認定認知症領域検査技師という資格を取得しています。認定認知症領域検査技師とは、日本臨床衛生検査技師会が設けた制度で、ご本人やご家族が安心して検査を受けられ、正確な結果につながるよう、認知症について学んだ臨床検査技師が得られる資格です。同院の臨床検査科には、この資格を取得している臨床検査技師4名が在籍しています。

「認知症の病態や対応についても学んでいますので、検査中の出来事や発言など、治療に役立つ可能性のある情報は、報告書に詳細を記載し、医師が確認できるようにしています」(桑原さん)

「神経心理検査を受ける方は、緊張し不安だったり、自信を失っていることも多い」と話す桑原さんは、笑顔を絶やさず雑談なども交えてリラックスできるように接したり、難しい言葉は使わずに大きな声でゆっくり短い文で会話しているそうです。「まだですか?」「さっきも言いましたよね?」など、返答を急がせたり自尊心を傷つけないよう、言葉遣いにも気をつけているそうです。

また、桑原さんは臨床検査技師として早期発見に貢献するため、認知症危険因子の一つである糖尿病の患者さんが参加する糖尿病教室や院内イベント等で、神経心理検査を詳しく説明したり、実際に体験してもらうことを考えているそうです。

退院・転院に向けてケースワーカーが介入し地域と連携を

事務部医事課医療連携主任である小川亮さんは、ケースワーカーとして、患者さんやご家族からのさまざまな相談に乗るほか、入院患者さんの転院調整を行っています。退院する患者さんのうち、回復期医療機関などほかの医療機関への転院や施設入所が必要なときに介入して、転院先を決めていくことがおもな業務です。

「医師から依頼があれば、患者さんの状態を確認し、状態に合わせて医療機関や施設に相談します。場合によっては、地域の医療機関に片っ端から電話をかけて相談することもあります。受け入れ先である医療機関や施設でも定員が決まっていて、制限がある中で、ご本人やご家族のご希望にかなったところにご案内できるとやりがいを感じますね」(小川さん)

院外の機関との橋渡し役となる小川さんは、地域に戻る患者さんのために、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などとも小まめに連絡を取り、患者さんの情報を共有するようにしています。

「身寄りがない認知症の方が入院することも増えており、転院調整に時間がかかったり、転院先が見つからなかったりします。成年後見制度の手続きをしたり、行政に連絡したり、早めに介入するようにしています」(小川さん)

未来に向けて

越谷市立病院の診察室

中村先生は一般の人を対象とした啓発活動では、認知症の人のことを「未来の自分」だと伝えています。

「認知症は年を取れば誰もがなるものです。目の前の認知症の方は長生きしたときの自分なのですから、今、やさしくしておくことが将来やさしくしてもらえることにつながるかもしれません」(中村先生)

ケアマニュアルを生かした良質なケアの提供、研修を受講し対応力を上げた看護師の増加に加え、来年度の認知症ケアチームの発足で、認知症医療・ケアを充実させていく同院。中村先生は、要望も多いことから、認知症専門外来の開設も視野に入れています。同院は、地域のニーズと信頼に応え続けています。

 

 

取材日:2020年12月24日

越谷市立病院

〒343-8577
埼玉県越谷市東越谷10-32
TEL:048-965-2221

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